Musicity Singapore Journal
  • 六本木アートナイト& SPECIAL LIVE MUSIC 開催

    3月24日、六本木アートナイトが開催された。昼間降っていた雨も、夕方にはあがり、少し晴れ間も見えるくらいに回復。オープニングセレモニーが始まる頃には空はきれいな夕暮れ色に染まり、六本木ヒルズアリーナには多くの人が詰めかけた。セレモニーは、アートナイト特別顧問である安藤忠雄らの挨拶で幕を開け、参加アーティストたちが次々と登場。来日中のMusicity創設者、ニック・ラスコムも、多くのアーティストたちと並んでアートナイト開幕を祝った。セレモニーの最後に、今回のアートナイトのシンボルともいえる、高さ10メートルにも及ぶ新作「ヤヨイちゃん」を制作した草間彌生が登場し、大きな拍手で迎えられた。やがて日没を迎えると、それまで座っていたヤヨイちゃんが立ち上がり、アートナイトの開幕を告げた。その後、草間が詩の朗読と、歌も披露。困難な状況下でも、美しさと愛を持って生きることが大切という、強いメッセージが伝わってきた。
    アートナイトでは多数のイベントが開催され、さまざまなアートが六本木の街を彩った。その賑わいはまさにお祭りのよう。そんなお祭りムードのなか「SPECIAL LIVE MUSIC curated by Musicity Tokyo」として、2日間にわたり3つのライブが行われた。

    まず24日のアリーナには、オオルタイチと、ダンスカンパニー珍しいキノコ舞踊団が登場。ダンスパフォーマンスと相性のいいオオルタイチのサウンドとリズムがこの日も炸裂。珍しいキノコ舞踊団のメンバーも、ヤヨイちゃんとその愛犬リンリンをバックに、所狭しと躍動感あふれるダンスを披露。オオルタイチも終始楽しそうに踊りながら聴衆を沸かせ、このコラボレーションが初めてとは思えないほど息の合ったパフォーマンスを見せた。ものすごい数の観客で埋め尽くされたアリーナは、彼らの発するポジティブなパワーによって祝祭的なムードと興奮に包まれた。
    ライブを終えたオオルタイチは「あんなにお客さんがたくさんいるとは思いませんでした。こういう公共の場でやるのは、通常ライブハウスでやるのとは全然違って、僕にとっても節目になったと思います。珍しいキノコ舞踊団も、あんなにちゃんと振付をしてくれていると思わなかったので、やりながらテンションが上がりました。一緒にステージに立ててよかったです」と話した。
    Musicityでは、オオルタイチの曲は乃木公園で聴くことができる。
    「六本木ヒルズの辺りは活気であふれていますが、乃木公園の辺りはひっそりしていて、ちょっと気味の悪い雰囲気もあったので、そんな印象が音楽で表せたらと思いました。こういうプロジェクトはおもしろいと思いますし、東京以外の小さな都市でもやってほしいです」

    続いて東京ミッドタウンのアトリウムでは、中島ノブユキのライブが行われた。Musicityでは、中島は1934年のイギリス映画『アラン』に想いを寄せた曲「ARAN for piano solo」を提供してくれ、まさにミッドタウンで聴くことができる。この日のライブは「Improvisation for ARAN」と題し、インプロヴィゼーションによるパフォーマンスを披露。静謐さと激しさが波のように打ち寄せる音色に、観客は熱心に耳を傾けていた。最後に「ARAN for piano solo」が演奏され、用意されたスクリーンに映画の一部が映し出された。それはほんの断片だったが、荒涼とした風景の中にどこか人の愛おしさが滲み出るようなシーン。その場所でしか聴けないMusicityの音楽が生で演奏され、さらにその曲の源泉となった映像が浮かび上がるという、この日だけの重層的なライブパフォーマンスとなった。
    演奏を終えた中島は「映像を流しながら演奏するというのは、実は初めてだったのですが、とても新鮮でした。僕はなかなか新しい試みに踏み出せないタイプなのですが、Musicityのようなプロジェクトに参加できてうれしかったです。少しでも多くの人にこの場所に足を運んでもらい、多くの人の耳に僕の音楽が届いたらうれしいですね」と話してくれた。

    前夜の興奮冷めやらぬ翌25日午後。Musicityスペシャルライブの最後を飾るのは、蓮沼執太の『タイム』。これは山田亮太による詩をモチーフとした作品で、2月に神奈川芸術劇場でも上演された。今回は、国立新美術館の明るいエントランスロビーに舞台が用意され、六本木アートナイトバージョンとして披露。石塚周太、木下美紗都、権藤知彦、Jimanicaといったミュージシャンや、ほうほう堂のダンサー福留麻里など、バックグラウンドが異なる出演者たちが、入れ替わるように絶えず動き回り、音楽とも朗読ともダンスともつかない実験的なパフォーマンスを繰り広げた。
    「国立新美術館はガラス張りの建築で、明るい日差しの中でパフォーマンスできて、すっきりした気持ちです。『タイム』は上演する場所や時間、環境に、フレキシブルに合わせていきたいと思っているので、光が入る場所や時間帯を意識して作品をリアレンジしました」と蓮沼。
    今回のMusicityの彼の曲はけやき坂通りで聴けるが、それはこの『タイム』がもとになっている。時間と空間をテーマにしたパフォーマンスである『タイム』が、時間と空間を超え聴くことのできるMusicityというプロジェクトで再現されたのは、とても興味深い。
    「Musicityは僕がこれまで体験したことのない試みで、刺激的でおもしろいと思いました。場所と音楽をつなぐということや、音楽を手に入れる時間ということを俯瞰的に見て、どういう表現ができるかと考えたときに『タイム』がぴったりだと思ったんです。たとえば同じ音楽でも、梅雨の雨音と一緒に流れる音楽と、天気のいい日に流れる音楽は、絶対的に捉え方が違ってくる。僕はいつも場所のことは意識していますし、その場所の環境で、パフォーマンスとして何が表現できるかと考えることが、新しい表現のアプローチだと思っています」

    2日間のアートナイトを体験したニックは「観客が多くて驚いたけど、オオルタイチと珍しいキノコ舞踊団のライブはポップアートのようだったね。中島ノブユキのライブはまた全然違う客層で、場所もゴージャスな雰囲気。蓮沼執太のライブは音楽と動きが組み合わせられて、ポエトリーなステージだった。どれも楽しかったよ」と語ってくれた。ラジオ出演や取材などで大忙しのスケジュールの中、アートナイトを楽しんでいたようだ。
    一夜の夢のようなアートナイトは終了したが、Musicity Tokyoは始まったばかり。これからも六本木の街を訪れる多くの人に、この新しい音楽体験を楽しんでほしい。

    (取材・文:榎本市子、撮影:ただ、Hako Hosokawa[蓮沼執太])

    • page_top